好評をいただいております自治体ビジネスのプロが教えるシリーズ、
今回は「自治体ビジネスを勝ち抜く!競争力向上の秘策とは?」をテーマに全4回に分けて解説します。
本記事を参考にして、自治体ビジネスの競争力を身につけ、ビジネスチャンスを掴みましょう。
自治体ビジネスを勝ち抜く!競争力向上の秘策とは?
第1回:自治体ビジネスに取り組むと民間ビジネスも伸びる理由【本記事】 |
自治体ビジネスのスキルの有効性
自治体ビジネスに取り組もうとする会社が最初に着手すること、
それは担当部門の立ち上げと担当者の任命です。
これから自治体営業に取り組む人材は人事異動で営業部門から任命されたり、外部から営業経験者を採用したり、いずれも民間企業を顧客としてキャリアを歩んできた方々です。
部門については新たに立ち上げる場合もあれば、既存の部署に自治体営業という業務を新しく割り当てる場合もあります。
かくして立ち上がった部門に業種を問わずみられる共通点。
それは、自治体営業担当者が専任ではなく、民間企業相手の業務あるいは民間営業担当と兼任・兼務であること。
会社側も経験がなくうまくいくか未知数の自治体ビジネスに取り組むわけですから、人的資源をドカンと投入する意思決定にはなかなかなりません。
さて、こうしてスタートさせた自治体ビジネスですが、立ち上げて数年経った会社からしばしば聴かれる声をご紹介しましょう。
それは「自治体ビジネスに取り組んだ結果、民間ビジネスの数字も伸びた」というもの。
なぜこうしたことが起こるのでしょうか。
成功体験から構築された民間の営業手法
昭和な時代はものを作れば売れた時代。
同じ製品やサービスが競合他社からも数えきれないほど市場に投入されていきます。
そうした市場の状況を背景に、自社製品を他社製品よりいかに数多く、かつ効率よく売り捌くかに特化した組織体制・人材育成・マネジメントが確立され、企業は大きく成長を遂げていきました。
特に営業分野ではいくつもの「成功の法則」が確立されていきます。
代表的な考え方がこちら。
「あなたから買いたいと言わせなさい。」
この言葉に代表されるような「売るための秘訣」を、営業担当者は上司や先輩から教わって実績を積んできました。
では、消費者ニーズが多様化の一途を辿る現在の営業スタイルとしてこの考え方は依然として王道なのでしょうか。
実は、徐々に通じない局面が増えてきています。
物が売れなくなってきていると言われて久しい今、「こちらが売りたいものを売り捌く」よりも「市場や顧客が求めるものを提供して買ってもらう」という、いわゆる「提案営業」にスタイルを切り替えていく必要性が出てきました。
顧客が何を求めているのか?何が欲しいのか?
背景には顧客が抱えるニーズや課題が存在し、そうしたニーズを満たし課題を解決する製品やサービスが提案できる営業担当者でないと受け入れられません。
最早営業担当者の個人的な人間力や営業マンの個性だけでは立ち行かなくなりつつあるのです。
ここでトレーニングになるのが自治体営業の現場。
自治体ビジネスの営業に取り組むと、民間ビジネスを伸ばすことにも役立つ3つの力が身に付きます。
① 傾聴力がつく
自治体ビジネスは自治体の課題やニーズを把握できてこそ案件化できます。
民間営業では自社製品やサービスのパンフレットを手に説明し、購入意欲を引き出すのが営業担当者の役割。
一方自治体営業の場合は、自社製品ありきでは商談が進みません。
まずは目の前の自治体の地域に具体的にどのような課題があるのか、その課題解決を目指す担当職員が何に悩んでいてどのような情報を求めているのかなど、まず職員の話をじっくり聞くことがセールスの前に必須のプロセス。
逆にここをすっ飛ばして自社製品の説明に終始してしまうと、相手の職員は「ウチの地域の課題解決よりも売りたいだけの会社なんだな」と受け止めてしまい、せっかくアポイントを取れて面談できても「また機会があったらよろしくお願いします」と言われて営業活動が頓挫してしまいます。
「話し上手より聞き上手」。
自治体営業担当者の必須スキルは、ずばり傾聴力。
話し上手な営業担当者が自治体営業で「聴く」スキルを磨くことによって、民間ビジネスでの提案営業活動をアップデートすることができます。
② 仮説立案力がつく
上記で傾聴力の重要性に触れましたが、そもそも傾聴をどのように進めれば良いのでしょうか。
具体的に何を傾聴していくか設定していく必要があります。
「何かお困りのことありますか?」から始めてしまうのは単なる御用聞き。
問われた自治体職員も、そもそもお困りごとだらけの自治体職員の仕事の現状。
いきなりお困りのことと言われても、どの分野のどんなお困りごとを話せばいいのか範囲が広すぎて「うーん・・・どうかなあ。まあとりあえずはいいです。」と、話が進みません。
こうした状況に陥らないようにするために必要なのが「仮説の立案」。
営業アプローチの前準備として、自治体の当該部門がその時点でどんなことに取り組もうとしているのかを確認した上で、それを進める上でどんな課題に直面することが想定されるのか、仮説を立てて商談に臨むのが鉄板セオリー。
その仮説立案に欠かせない材料が、自治体ごとに将来展望や具体的な取り組み事項が示されている各種戦略や計画です。
一般的には「行政計画」と呼ばれるこうした計画は、どの自治体も分野ごとに必ず何らかの中期的な計画書を策定しています。
自治体営業担当者にとって、そうした計画の中の取り組み事項をまず押さえるのは常識中の常識。
どの自治体も計画書は公式ウェブサイトからダウンロードできますので、お目当ての領域の行政計画で自治体の取り組み事項を確認し、「取り組む上での課題には何がありそうか」「自社のソリューションがその課題解決のどの部分に貢献できそうか」などについて仮説を立て、何が提案できるか仮説を立てて臨みましょう。
それができてくると、単なる物売りセールスから一歩進んだ課題解決の仮説を立てる自力がついてきて、提案スキルの底上げに結びつきます。
③ 提案力がつく
提案営業は、1回の商談では決まらないことがほとんど。
課題解決のための価値を段階的にプロセスに沿って顧客に伝えていくアプローチです。
セールス活動を点に例えれば、提案営業は線ということができます。
提案営業をプロセスで進めていく上で、上記2点で触れてきた「傾聴力」そして「仮説立案力」が備わることで営業プロセスに応じて自治体職員が直面する課題やニーズを引き出す提案力が磨かれます。
元々地方自治体とは、社会課題・行政課題の解決や地域住民の福祉の向上というニーズに役立つことにしか税を投じない組織。
そんな自治体ビジネス市場で求められる営業マンの姿勢とはなんでしょうか。
それは「目の前の自治体が直面している課題は何か」「職員が現場で困っていること・知りたいことは何か」にまず関心を寄せ、それらのニーズや課題の解決と自社製品・サービスの強みとが重なるところを探りあて、その部分を提案していく。そうしたプロセスが営業活動の定石です。
これは、民間ビジネスで求められるようになってきた提案型営業と手法やプロセスはほぼ同じ。
だからこそ自治体ビジネス市場で提案営業をトライアンドエラーで取り組むのが民間ビジネスでの提案営業のトレーニングとなり、結果として民間分野の数字も伸びていくということに結びつくというわけです。
もとより自治体職員は、特定の営業担当者の人柄が良いからと言ってその会社に業務を発注することはコンプライアンス上絶対にありえません。
どんな営業担当者にも分け隔てなく公平に接するのが彼らのルール。
「あなたから買いたいと言わせなさい」が全く通じない自治体ビジネス市場。
営業アプローチを開始してからマネタイズするまで相応の時間を要する市場ではありますが、根気良く自治体への提案営業の腕前を磨いていくことで民間営業担当者の人材育成という面でも大きなメリットがあるのです。
自治体ビジネスを勝ち抜く!競争力向上の秘策とは?
第1回:自治体ビジネスに取り組むと民間ビジネスも伸びる理由【本記事】 |
この記事の執筆者
株式会社LGブレイクスルー 代表取締役 古田 智子 氏 慶應義塾大学文学部卒業後、総合コンサルティング会社入社。中央省庁、地方自治体の幅広い領域の官公庁業務の営業活動から受注後のプロジェクトマネジメントに携わる。 2013年2月、 (株)LGブレイクスルー創業。人脈や力学に頼らず、国や自治体からの案件の受注率を高める我が国唯一のメソッドを持ち、民間企業へのコンサルティング・研修事業を展開。著書に『地方自治体に営業に行こう!!』『民間企業が自治体から仕事を受注する方法』がある。 |