好評をいただいております自治体ビジネスのプロが教えるシリーズ、
今回は「自治体ビジネスを勝ち抜く!競争力向上の秘策とは?」をテーマに全4回に分けて解説します。
本記事を参考にして、自治体ビジネスの競争力を身につけ、ビジネスチャンスを掴みましょう。
自治体ビジネスを勝ち抜く!競争力向上の秘策とは?
第2回:実証実験を効果的に活用する3つの秘策!【本記事】 |
取引を始めやすい実証実験
国がデジタル技術を使ってより良い社会を実現するために立案した戦略、デジタル田園都市国家構想。2022年にリリースされたこの戦略内で示された方向性には、幅広い領域の民間企業にビジネスを広げる機会を見出すことができます。
とりわけDX関連のソリューションを有する企業には明らかに追い風。社会課題の解決を図つつ自社の事業を成長させることができる、何よりも大きな機会となり得ます。
その一方で、地方自治体側からすると、そう簡単に進められるわけではない特有の事情があります。リスクを嫌う組織である地方自治体は、原則として新しい技術やソリューションに関する事業予算を確保する際にはいくつものハードルが設けられているのです。
民間ビジネスであれば、取引関係にある2社の合意形成をさっさと固め、金融機関から資金調達しPDCAを高速で回しながら新規事業開発に取り組むことも可能です。
一方で地方自治体の場合は、ビジネスの財源が基本的には地域住民や国民から預かっている大切な税金。地域の将来のために何をどのように使うのか、合意形成を図りながら時間をかけて慎重に使い道を決めていく仕組みや制度となっています。
また、こうした仕組みや制度は条例などに基づいており、部長や課長の権限でぱぱっとルールを変えたりすることはできないのです。民間企業としてはスピーディーに地域課題の解決に貢献し、ビジネスの速度を上げていきたいというのが率直なところでしょう。
そこでよく採用されるのが実証実験。
民間企業側からすると自治体に提案が受け入れられやすいため、新規サービスを展開する民間企業がまずは実証実験から始めるケースが多くなっています。
実証実験に取り組んだものの、ビジネスに結びつかない現実
ここで昨今非常によく起こっている事態をご存じでしょうか。
それは「実証実験を多数の自治体と取り組んだ結果、その後ビジネスに全く結びつかない。受注もゼロ」という現実です。
民間企業側からすると、実証実験はゴールではなくスタート。
その後自治体の契約を取ることが目的なのに、これでは仕事に繋がらないばかりか、実証実験に至るまでの営業コスト・事業コストが回収できなくなってしまいます。
実証実験がうまくいかない原因とは?
一体なぜこんな状況に陥ってしまうのでしょうか。
原因はただ一つ。
「実証実験の目的と目指す方向性について自治体と合意形成しないで始めてしまうから」。
自治体側と民間企業側との実証実験に対する認識は、そもそも全く異なっています。
そもそも実証実験について民間企業側は「提案が通りやすい実証実験で関係を作っておけば、その後予算を取って新規サービスや製品を導入してくれるに違いない」という思い込みがあります。
一方自治体側は「実証実験なら『お試し』だからリスクもゼロに近いし予算も確保しないで済む。自由に取り組んで貰えばいい」という考え方で実証実験を承諾します。
このあたりを事前によく調整しておかないと、新たな事業について予算を取りにくい自治体の仕組みからするとビジネスにならなくてむしろ当然。
「自治体は実証実験終わった後予算を取ってくれない。自社のソリューションの良さを理解できる知識がない」という声を民間企業の営業担当者から時々耳にしますが、これはむしろ民間企業側のアプローチに課題があることが多いものです。
実証実験立て付けのセオリー
こうした状況を回避し実証実験を自治体・民間企業双方にとって実のある取り組みとするためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。
取り組む価値がある対応を3点ご紹介しましょう。
① 実証実験を持ちかける段階で事業化の意向を示し合意形成を図る
何よりもまず必要なのは、実証実験を持ちかける段階で「実験が終わった後はこの地域でビジネスとして実装していきたい」という意向を示すこと。
予算の話を出すと自治体が渋ることを恐れて予算の話をうやむやにして進めると、結果的に狙いとするビジネスが成立しなくなります。
そもそも予算の話で自治体側が難色を示す背景には、新しいことに対してチェックを入れる予算査定を担う財政課や議会の承認を気にしているから。その懸念点を取り除く方策を一緒に考えるスタンスだと話が進みやすくなります。
例えば国からの補助金で活用可能なものを調べ、中長期的な財政負担が少ないことを客観的な証拠で示すなどの方策が有効。
もちろんそれなりの準備は必要ですが、なし崩しに実証実験に入ってしまって後で後悔するくらいなら試す価値ありです。
② 実証実験を年度内でどのように進めるか計画書を自発的に出す
自治体職員にとって実証実験は「民間に対して機会を提供することで役割は果たした」という認識が根強いもの。
だから実証実験は口頭のやりとりだけで進んでしまうことが少なくありません。
一方民間側にとっては実証実験後の予算措置などで自治体と協力体制を組むのが不可欠ですから、口頭での約束で何もエビデンスが残っていない場合はその後の進め方が難しくなります。
そうならないためにも、提出を求められていなくても民間側から実証実験の年度内のプロジェクト計画書を作って共有し、どの段階で自治体に何を報告し、どのようなところで連携していただきたいか合意形成を図っておくことが重要。
早い段階で職員の意見を聞きながら巻き込みながら対話重視で進めていくことで、実証実験終了後の望ましいアプローチが見えてきますしその後の対応について協力も得やすくなります。
③ 実証実験の結果を別の自治体へのアプローチに有効活用する
それでも当該自治体との間でビジネスになることが期待薄の場合は、実証実験の結果を他の自治体に提示して事業の妥当性・有効性を示せるように実施結果の報告資料をしっかりまとめておきましょう。
実証実験の結果報告を営業資料として活用すると自社製品のパンフレットの10倍は効果があります。
ビジネスに繋げたいという意向は堂々と示そう
実証実験は、自治体とのコミュニケーションのハードルが低いが故についつい進めてしまいがち。
その後の事業展開を考えて自治体職員とコミュニケーションを取りながら進めましょう。
自治体側も民間企業は利益を出し続けなければ立ち行かないことは承知しています。
断られることを怖がらず、堂々と「ビジネスとして進めていきたい」と自治体に伝えて、それでもパートナーとして一緒にやりたいという意向の自治体と実証実験に取り組むようにすると良いでしょう。
自治体ビジネスを勝ち抜く!競争力向上の秘策とは?
第2回:実証実験を効果的に活用する3つの秘策!【本記事】 |
この記事の執筆者
株式会社LGブレイクスルー 代表取締役 古田 智子 氏 慶應義塾大学文学部卒業後、総合コンサルティング会社入社。中央省庁、地方自治体の幅広い領域の官公庁業務の営業活動から受注後のプロジェクトマネジメントに携わる。 2013年2月、 (株)LGブレイクスルー創業。人脈や力学に頼らず、国や自治体からの案件の受注率を高める我が国唯一のメソッドを持ち、民間企業へのコンサルティング・研修事業を展開。著書に『地方自治体に営業に行こう!!』『民間企業が自治体から仕事を受注する方法』がある。 |