入札案件の獲得は、企業の成長を左右する重要なミッションです。入札の競争が激化するなかで、新任担当者のみならず、経験豊富な入札担当者であっても「入札不調」や「入札不落」という言葉は気になるキーワードではないでしょうか。
落札するためには、不調案件を見極め勝てる案件に集中することが肝心です。しかし、そのためには入札不調の原因を正しく理解し、適切な対策を講じなくてはなりません。
たとえば、事前の情報収集や競合の分析などは、落札率を高めるうえで重要な手段です。本記事では、初心者の方にもわかりやすく入札不調・入札不落の影響や対策を解説しますので、ぜひ参考にしてください。
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入札不調・入札不落とは
入札不調と入札不落は、どちらも落札者が決まらない状態を指しますが、その内容は異なります。まずは、それぞれの定義と特徴を整理しましょう。
区分 | 特徴 |
入札不調 | 入札に参加する事業者が存在しないため、入札が成り立たない状態 |
入札不落 | 入札参加者は存在するものの、条件があわず落札に至らない状態 |
以下で、さらに詳しく解説します。
入札不調とは
入札不調とは、入札公告に対して入札参加者がいない状態、または条件を満たす業者がいないために、契約相手が決まらない状態を指します。
入札への参加がない状況はそう珍しいことではなく、大規模なプロジェクトであっても入札不調に陥ることはあり得ます。
実際、過去にも大阪関西万博の入札不調がニュースで大きく取り上げられました。
参照:沖縄タイムス/縄県の大型MICE施設、参加表明の事業者ゼロ きょう18日が期限、入札不調の可能性も 2029年の開業に遅れも
参照:日経BP/万博の入札不落・不調は「2024年問題」の予兆か、炎上リスク回避か
入札不調が発生した場合、発注機関は入札条件を見直したり、再び入札の公告をおこなったりする対応が必要となります。発注機関にとっては、事業計画の遅延や事務手続きの増加といった大きな負担となるケースが多いでしょう。
入札不落とは
入札不落とは、入札参加者は存在するものの、すべての入札が発注機関の設定した基準を満たせず、落札者が決定しない状態を指します。
具体的には、以下のケースが該当します。
- 価格が原因の不落:複数の入札参加者がいても、すべての入札価格が予定価格を超過している場合、または最低制限価格を下回っている場合
- 技術提案が原因の不落:技術提案を求める入札(プロポーザル方式や総合評価落札方式など)において、すべての提案内容が発注機関の求める基準を満たさない場合
これらの場合も、入札不調と同様に再度公告をおこなう必要があり、発注機関にとっては負担となります。
入札不調・入札不落になる原因
入札不調や入札不落が発生する原因は、多岐にわたります。ここでは、入札不調・入札不落の主な原因を入札参加者側の視点から解説します。
入札不調・入札不落の主な原因 | 詳細 |
情報不足 | ・入札公告自体を知らなかった、または、公告内容の詳細を十分に把握していなかったため、入札参加を見送った ・外郭団体など認知度が低い発注機関で公示される案件などは、企業が情報をキャッチアップできずに、参加者がいないことがある |
参加資格の不適合 | ・入札に参加したい意欲はあるものの、発注機関が求める参加資格(技術力、実績、経営状況など)を満たしていなかった |
履行期間の問題 | ・発注機関が設定した履行期間(工期)が短すぎる、もしくは自社のリソースでは十分に対応できないと判断した |
リソース不足 | ・新たな案件に対応するための技術者や作業員、機材などを確保できない ・発注ロットが大きすぎて、自社のキャパシティを超える |
予算があわない | ・予定価格の範囲内では採算がとれないと判断した(予定価格が事前公表される場合) |
情報不足が原因である場合、競争相手がいないため狙い目の案件であるともいえます。参入したい分野の案件を探す際は、情報をくまなくチェックするとよいでしょう。
入札不調・入札不落が起きたときの3つの対応
入札不調や入札不落が発生した場合、発注機関は状況に応じて対処します。ここでは、主な3つの対応方法について解説します。
- 再入札公告
- 新規の入札公告
- 不落随契
なお、入札は原則として3回までとする発注機関が多いため、覚えておきましょう。
入札不調が発生した際の対処法については、以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
関連記事:入札不調の案件も再検討を
再入札公告
「再入札公告」とは、入札が成立しなかった際に、再び公告をおこなうことです。
発注機関は、金額や工期などの条件を見直したうえで、再度公告を出すことが可能です。この場合、公告から入札までの期間を5日に短縮可能であり、スピーディーに次のステップへ進めます。※通常は公告から入札まで10日以上の期間が必要。
新規の入札公告
再入札公告以外の方法として「新規の入札公告」が挙げられます。
入札不調・入札不落の原因が「契約保証金及び履行期限」以外の条件にある場合に、あらためて入札公告をおこなうケースが考えられます。主に、工事の内容や入札参加条件、予定価格などを変更する場合は、新規での入札公告となるでしょう。
必要な変更を反映させたうえで、あらためて入札手続きをおこなうことで、より多くの入札参加者を集め、適切な競争環境を目指します。
不落随契
「不落随契」とは、入札が不調または不落となった場合に、競争入札によらず、特定の事業者と随意契約を締結する方法です。この手段は「入札不調・不落による随意契約」とも呼ばれることもあります。
たとえば、入札不調の原因を調査した結果「契約保証金及び履行期限」以外の条件を変更する必要がないと判断され、かつ、再度入札を実施しても応札者が極端に少ないと見込まれる場合、随意契約を選択するケースが考えられます。
ただし、随意契約は競争性がなく公平性に欠けるおそれがあるため、その適用は例外的です。
入札不調・入札不落による影響
入札不調・入札不落による影響は発注機関、応札者の双方に発生します。
ここでは、それぞれの影響について解説します。
- 発注機関:地域の経済活動に影響がでる
- 応札者:準備の労力が無駄になる
入札不調・入札不落は、双方にとってデメリットの部分が大きいため、極力避けたい状況であるといえるでしょう。
地域の経済活動に影響がでる
入札不調は、公共サービスの提供遅延や、地域経済活動の停滞を招くおそれがあります。とくに道路や橋梁などのインフラ整備や、学校や病院などの公共施設の建設などにおいて入札不調が発生すると、その影響は甚大です。
また入札不調・不落が頻発すると、入札市場全体の信頼性が低下し、健全な競争環境が阻害される懸念もあります。
準備の労力が無駄になる
入札に参加するためには、入札公告の確認や仕様書の精読、積算・見積書の作成など、多くの業務が発生します。入札不調は、応札者にとってこれらの準備に費やした労力がすべて無駄になることを意味します。
とくに中小企業にとって、入札準備にかかる負担は大きく、案件獲得機会の損失は経営に大きな影響を与えかねません。入札不調・不落が続けば、コストがかさみ、事業継続に影響を与えるケースも考えられます。
入札不調・入札不落が増加している理由
入札不調や入札不落が増加している原因として、昨今の物価高騰が関係していると予想されます。
発注機関が予算に対して不適切な入札条件を設定した場合、参加企業の意欲が低下し、入札に参加する事業者が減少することは避けられません。
毎日新聞の調査によると、全国30か所の地方自治体において、公共工事の遅延が発生しています。入札がスムーズにいかない状況が続くと、必要なインフラ整備に支障をきたす可能性があります。
このような入札不調・入札不落の多発を防ぐため、発注機関に対して適正な最低価格の設定が求められています。
参照:毎日新聞/公共施設耐震化、半数の自治体が見直しや先送り 将来計画に不安も
入札不調・入札不落を減らすための取り組み例
前述のとおり、入札不調・入札不落は社会的観点からも極力減らさなければなりません。そのためには発注機関と入札参加者側の双方が、それぞれの立場から対策を講じる必要があります。
発注機関が実施できる主な取り組み事例は、主に以下の3点です。
- 適正価格による発注
- 適切な工期の設定
- 事務手続きの簡素化
応札者に負担がかかりすぎないようにするため、国土交通省から以下のガイドラインが公開されています。
参照:国土交通省/公共工事の円滑な施工確保について(地方公共団体あて要請)
適正価格による発注
入札不調・入札不落の大きな原因の一つが、予定価格と市場価格との乖離です。発注機関には、市場の実勢価格を正確に把握し、工事や業務の品質に見合った適正な価格で発注することが求められます。
適正値よりも極端に低い価格での発注は、ダンピング(不当廉売)を招き、結果として工事の品質低下や、労働環境の悪化につながるおそれがあります。適正な価格設定は、健全な競争環境を確保し、受注者側の経営安定化、ひいては質の高い成果品の確保にも貢献するでしょう。
適切な工期の設定
工事内容に見合わない短い工期設定は、入札参加者を敬遠させ、入札不調・不落の原因となります。発注機関は工事内容をよく検討し、必要な工期を正確に算出する必要があります。
具体的には、工事の規模や難易度だけでなく、季節や天候による影響、資材の調達期間なども考慮しなくてはなりません。また、予期せぬ事態が発生するリスクに備えて、ある程度余裕を持たせた工期設定にすることが望ましいでしょう。
事務手続きの簡素化
入札参加に関する手続きが煩雑であることも、入札参加者を減らす要因の一つです。過剰な資格要件を排除し、より多くの企業が入札に参加できる機会を創出することも課題のひとつです。
具体的には、提出書類の簡素化や電子入札への移行を進めることで、入札参加者の負担を軽減できます。これにより、中小企業や新規参入企業が、入札に参加しやすくなることが期待できるでしょう。
入札で落札率を上げる方法
ここでは、入札に参加する企業が落札率を上げる2つの方法を紹介します。
- 綿密な情報収集と分析をおこなう
- 精度の高い見積もりを作成する
競争入札において落札率を高めるためには、入念な準備と戦略的なアプローチが必要です。入札に参加する際は、綿密な計画を立てておきましょう。
綿密な情報収集と分析をおこなう
落札するためには、案件の徹底的な情報収集と分析が不可欠です。入札情報サービスなどを活用し、競合他社の情報や過去の落札結果、最低制限価格の有無やその金額などを収集・分析しましょう。
さらに、発注機関のWebサイトや公表資料を確認し、相手側のニーズや意図を的確に把握することが重要です。説明会が開催される場合は、できるだけ参加して、少しでも多くの情報をキャッチしましょう。
精度の高い見積もりを作成する
正確な積算と見積もりは、落札を左右する重要な要素です。過去の類似案件の実績データを参考に、労務費や材料費、外注費などを調べて、精度の高い見積もりを作成しましょう。
天候不順や資材価格の高騰など、予期せぬ事態が発生するリスクも考慮して、ある程度の余裕を持った価格設定にしておくことも大切です。ただし、過剰なリスクを見込むと競争力が低下するデメリットがあります。
利益を確保しつつ、競合と戦えるようにするためには、絶妙な価格設定が求められるでしょう。
なお、細かい見積もりは複数人でチェックし、ミスや漏れを防ぐことも大切です。
入札不調・入札不落になりそうな案件を見極める目を養おう
本記事では、「入札不調」について、その原因から実務で使える対策までを解説しました。
入札不調の背景にある課題をきちんと理解しておくことは、今後、入札で勝ち抜くために非常に重要です。国や自治体は、入札制度改革に力を入れており、発注情報の更なる透明化や、入札参加要件の見直しなども進められています。
こうした状況変化を的確に捉えたうえで、戦略的に入札に臨むことがこれまで以上に求められています。入札に関する最新情報や、個別の入札案件に関する専門的なアドバイスが必要な方は、専門家に相談するのも選択肢のひとつです。
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