公共工事や物品調達では、発注者があらかじめ設定する「予定価格(上限額)」が落札の可否を左右します。制度の仕組みや計算方法を理解していないと、せっかく積算しても失格になったり、価格戦略がずれたりする原因になりかねません。
本記事では、予定価格の意味や最低制限価格との違い、計算方法をわかりやすく解説します。予定価格の考え方を押さえて、落札の可能性を高めましょう。
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予定価格とは
予定価格とは、国や地方公共団体が入札や随意契約で定める「支払上限額(天井)」です。公共調達の公正性と経済性を守るため、発注者は予算内で適正な契約を行う必要があります。
予定価格は、直接工事費や間接費、外注費などを積み上げ、消費税相当額を加えて算出します。かつて行われていた、設計書金額の「歩切り」は法律で禁止されており、現在は積算した額をそのまま予定価格とするのが原則です。
多くの公共工事では、予定価格(上限)と最低制限価格(または調査基準価格)という「天井」と「床」が設定されます。入札者は、通常、この範囲内に見積額を収めることが求められますが、案件によっては最低制限価格を設けていない場合もあります。
参考
予定価格と最低制限価格・設計価格の違い
入札実務では、「予定価格」とよく似た用語として最低制限価格や設計価格があります。しかし、これらは役割も法的な意味合いも異なるため、混同すると正しい入札戦略が立てられません。
ここでは、それぞれの違いを解説します。
最低制限価格との違い
予定価格と最低制限価格は似た言葉ですが、役割や法的な意味合いは異なります。
まず、予定価格は発注者が支払える「上限額(天井)」です。これを上回る入札は失格となり、予算の適正執行や会計法・地方自治法の遵守を目的としています。
一方、最低制限価格は「下限(床)」です。極端に低い入札によるダンピングを防ぎ、工事や製造の品質を守るとともに、下請け業者の保護も図ります。
ダンピングとは、必要なコストや適正利益を無視して極端に低い価格で入札・受注する行為のことです。金額は各発注者が定める算定式を予定価格に適用して算出されるため、両者は連動しています。
入札者は、この天井と床の範囲内で見積額を提示する必要があります。たとえば予定価格が1億円、最低制限価格が9,000万円の場合、1億円を超えれば上限違反、9,000万円未満なら最低制限価格制度では失格です。
また、最低制限価格に似た制度として、低入札価格調査制度があり、あらかじめ定められた調査基準価格を下回ると、履行が可能かを見極める調査の対象となります。
このように、予定価格は「高すぎる契約」を、最低制限価格は「安すぎる契約」を防ぐ役割をもちます。
参考
設計価格との違い
設計価格と予定価格は金額が近いため混同されがちですが、性質と決定プロセスが異なります。
設計価格は、設計図書や仕様書にもとづき、積算基準や単価データを用いて算出される「技術的な工事費の総額」です。積み上げ計算にもとづく技術的な根拠をもつ数値であり、法的な入札基準額ではありません。
一方で予定価格は、設計価格を基礎にしつつ、予算枠・端数処理・政策的判断などを加えて契約担当者が決定する「法的な上限額」です。設計価格と一致するとは限りません。
自治体によっては、談合防止のため係数調整を行う場合もあります。ただし、予定価格の根拠はあくまで設計価格です。発注者と同じ積算基準で正確に設計価格を算出できれば、予定価格を一定程度予測できるようになります。
設計価格は積算担当者が導く「技術的な事実」であり、予定価格は契約担当者が決める「ルールとしての基準額」です。
予定価格が設定されている3つの理由
公共調達において予定価格が厳格に設定されている理由は、下記のとおりです。
- 契約金額の基準を周知するため
- 適切な契約を締結するため
- 透明性・公平性を確保するため
詳しく解説します。
契約金額の基準を周知するため
予定価格が設定される理由は、「発注者が支払える上限額」を明確にし、入札者に競争ルールを示すためです。公共事業は議会で承認された予算の範囲内で行う必要があり、予算を超える契約は成立させられません。
予定価格を事前に定めることで、予算の範囲内かどうかを確認しつつ、下記のような効果があります。
- 予算オーバーの入札を排除でき、事業の中断リスクを防げる
- 入札者が適切な積算を行いやすくなる
- 無効な入札が減り、手続きがスムーズになる
予定価格を事前公表する自治体も多く、上限額を共有することで競争を適正に保つ狙いがあります。
適切な契約を締結するため
予定価格が設定されているふたつ目の理由は、税金の無駄遣いを避けつつ、過度な低価格競争を抑えて品質を確保するためです。公共調達では「高すぎても安すぎてもよくない」といった、適正価格の見極めが重要になります。
予定価格を設定することで、次のような効果があります。
- 契約額の妥当性を保てる
- ダンピングによる品質低下を防げる
- 他制度(調査基準価格・最低制限価格)の基礎になる
このように、予定価格は適正な利益と品質を両立させるための価格の指標として機能しているといえるでしょう。
透明性・公平性を確保するため
予定価格が設定されている三つ目の理由は、入札手続きから恣意的な判断を排除し、公平性を担保するためです。公共事業は税金で運営されるため、特定業者の優遇や不透明な判断は許されません。
予定価格があることで、下記のような透明性が保証されます。
- 客観的な基準にもとづいて落札者を選べる
- 担当者の主観や癒着が入り込む余地を減らせる
- 予定価格の封緘・保管により、談合防止の効果が高まる
予定価格は、すべての入札者が平等に競争できる環境をつくり、行政への信頼を維持するための基盤となっています。
予定価格の構成要素・内訳
予定価格は、複数の費用を積み上げて算出される「総工事費」のようなものです。大きく分けると、次の3つで構成されています。
- 直接工事費
- 間接工事費
- 一般管理費等
それぞれの役割を詳しく見ていきましょう。
直接工事費
直接工事費は、工事対象物をつくるために直接必要となる費用で、予定価格の中心となる部分です。図面にもとづいて数量を拾い、単価を掛け合わせる積算方式で算出されます。
主に、下記3つで構成されます。
- 材料費:木材・鉄筋・コンクリートなどの購入費
- 労務費:職人・運転手など現場作業員の賃金
- 建設機械の損料や特許使用料などの直接経費
労務費は国の「公共工事設計労務単価」を用いるため、最新データを使うことが重要です。
また、数量拾いの精度が低いと予定価格との乖離が大きくなります。そのため、設計図書の細部まで読み込み、発注者と同じ基準で積算することが落札のポイントです。
間接工事費
間接工事費(共通費)は、工事現場を円滑かつ安全に運営するために必要な費用です。成果物として形には残りませんが、工事進行には欠かせないコストです。
間接工事費は次の2つに分類されます。
- 共通仮設費:現場事務所、仮設トイレ、電気・水道、安全設備など
- 現場管理費:現場代理人の給与、法定福利費、消耗品、通信費など
計算方法は、細かく積み上げる方式と「直接工事費の一定割合を乗じる」率分計算が一般的です。
予定価格にはこの率計算部分も確実に含まれるため、見積もり作成時に削りすぎると現場運営に支障が出る可能性があります。
一般管理費等
一般管理費等は、現場単位ではなく会社全体の運営に必要な費用と、企業が事業を継続するための利益を合わせたものです。公共工事も民間企業が行う以上、利益が確保されなければ持続的な施工体制を維持できません。
一般管理費等に含まれる主なものは次のとおりです。
- 本社・支店の人件費、役員報酬
- 本社事務所の家賃・光熱費・通信費
- 租税公課・保険料・広告宣伝費
- 適正な企業利益
一般管理費等は、工事原価に「一般管理費等率」を乗じて算出します。この部分を過度に削ると、会社の経営体力を奪い、将来的なダンピングや品質低下につながるおそれがあります。
予定価格に適切に組み込まれている内容を理解し、自社の見積もりでも適正に計上するのがポイントです。
予定価格の算出方法
発注者が予定価格を算出する際には、主に次の2つの手法が用いられます。
- 原価計算方式
- 市場価格方式
それぞれの計算方法を解説します。
原価計算方式
原価計算方式では、工事や特注案件など、仕様が個別具体的な場合に必要な費用を一つずつ積み上げて総額を算出します。下記のように計算するのが一般的です。
| 予定価格(原価計算方式) =材料費+労務費+機械費+間接費(共通仮設費・現場管理費など)+外注費 |
内訳の主な内容は下記のとおりです。
- 材料費:工事対象物の資材購入費
- 労務費:作業員の賃金(設計労務単価にもとづく)
- 機械費:建設機械や設備の使用料
- 間接費:現場運営に必要な費用(足場、仮設事務所、安全設備など)
- 外注費:専門業者に委託する費用
具体的には、設計図や仕様書を基に必要な材料や作業量を洗い出し、それぞれに単価を掛けます。さらに現場管理費や共通仮設費、必要に応じて外注費を加えて総額を算定します。
この合計が予定価格です。「歩切り」による引き下げは禁止されているため、積算した額をそのまま使用することが義務付けられています。
市場価格方式
市場価格方式は、すでに流通している物品や標準的なサービスの契約で用いられる方式です。パソコンや事務用品、清掃業務など、定価や市場相場が存在する案件が対象です。
基本的には、予定価格(市場価格方式)= 定価(希望小売価格)−値引額で計算します。
- 定価:市場での標準的な販売価格
- 値引額:過去の取引実績や複数見積もりを参考に算定
実際には、上記の計算式をベースにしつつ、過去の取引実績や複数業者からの参考見積もりをもとに、妥当な価格帯を算定します。
基本的には市場価格を基準とし、必要に応じて定価から値引きを加えて予定価格を決定する流れです。入札者は、自社の見積もりが市場相場から大きく外れていないことを示すために、根拠資料を添付すると妥当性を証明しやすくなるでしょう。
まとめ
公共工事の入札では、予定価格・最低制限価格・設計価格の違いを押さえることが欠かせません。予定価格は発注者が支払える上限、最低制限価格は極端に安い入札を防ぐ下限、設計価格は積算にもとづく工事費の目安です。
この仕組みを理解しておくと、見積額の設定がしやすくなり、不合理な失格や価格の行き違いを防げます。
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