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【前編】日本企業はなぜ脱炭素対応を急がなければならないのか ~GX推進政策とサプライチェーンが変える競争ルール~

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はじめに|脱炭素は“CSR”ではなく“市場参加の条件”へ

脱炭素やESGは、かつてはCSRの延長線で語られることが多いテーマでした。しかし現在、脱炭素は「社会貢献」ではなく、取引・調達・投資に参加するための必須条件へと性質を変えつつあります。

 

排出量が少ない企業が優位となり、多い企業は不利になる――。

このシンプルなルールが、制度・金融・産業の基準として世界中で固定化されはじめています。

一方、日本企業の現場では、「重要性は理解しているが、実務が進まない」という“実務ギャップ”が依然として大きな壁として立ちはだかっています。

特に自治体向け事業を企画されている企業にとって、脱炭素はすでに自治体調達・共同事業の選定条件へと入り始めており、対策の遅れはそのまま事業機会の喪失につながりかねません。

 

本稿ではまず、脱炭素が「なぜ急ぐべき必須条件となったのか」を整理します。
後編では、実務を前に動かすための具体的な対応モデルを紹介します。

 

脱炭素が“市場参入条件”となった3つの要因

脱炭素が企業存続に直結するテーマへと変わった背景には、制度・金融・サプライチェーンの同時進化があります。

 

1. 国際ルールが書き換わった(炭素税・国境調整)

EUの CBAM(炭素国境調整措置)では、輸入品の排出量報告義務化が開始され、本格的な課税開始も目前に迫っています。米国ではSEC(米国証券取引委員会)が上場企業に排出量開示を義務付ける規則を最終決定し、中国でも国内炭素市場が稼働しています。

これにより、「排出量が多い=国際取引で不利」というルールが制度として確立しました。

制度に従えない企業は、取引の土俵にすら立てなくなる可能性があります。

 

2. 金融市場の選別が加速(ESG投資残高約30兆ドル超)

世界の金融機関は、排出量データを企業の財務リスクとして扱い始めています。

排出量を開示できない企業は、下記のような直接的な損失を被ります。

  • 融資条件の悪化

  • 投資対象からの除外

  • 時価総額への悪影響

3. サプライチェーンのルールが変わった(取引条件の脱炭素化)

Apple、Microsoft、IKEA、Amazonといったグローバル企業は、取引先に
排出量算定・削減計画・再エネ化を厳格に要求しています。

対応できない企業は、価格・品質に関係なく“選定対象外”という選別が始まっています。

これは民間企業同士の取引だけでなく、公共入札案件にも波及し始めています。

 

GX推進法が示す国内政策の大転換

日本でも2023年のGX推進法を契機に、脱炭素は産業政策として本格化しました。
今後10年で150兆円規模の官民投資が予定され、GXは企業競争力そのものに直結します。

補助金・税制・立地政策の要件化

省エネ設備や再エネ導入を支援する補助金は拡充されましたが、前提として脱炭素の実践が要件化されつつあります。

対応できる企業だけが成長投資を獲得し、対応できない企業は政策メリットを受けられない構造が定着しつつあります。

自治体案件の“脱炭素要件”が拡大

自治体は国のGX方針を反映し、公共入札での排出量データ提出やGX関連の官民連携プロジェクトの拡大、さらにデータ活用を前提とした公募の導入など、企業側の脱炭素対応力を評価する仕組みを急速に広げています。そのため自治体向け事業を展開する企業にとって、脱炭素対応はすでに公共入札に参加するための前提条件へと変わりつつあります。

 

脱炭素対応が遅れた企業が抱える4つのリスク

脱炭素はイメージアップの問題ではありません。対応を怠れば、企業経営に深刻なリスクをもたらします。

1. 調達・取引停止リスク

脱炭素ができない企業は、グローバル企業や自治体の選定から外れる可能性があります。

2. 資金調達リスク

排出量を開示できない企業は、投資家・金融機関から選ばれにくくなります。

3. 競争力低下リスク

価格競争に参加する以前に、脱炭素対応の有無で市場から排除される可能性があります。

4. 事業機会喪失リスク

補助金・官民連携事業などの国策案件は脱炭素を前提とするため、未対応企業はそもそも応募ができません。

 

それでも企業が動けない“実務ギャップ”の正体

重要性は理解しているのに、なぜ現場では動けないのか。
そこには、構造的な“実務ギャップ”が存在します。

1. 排出量算定・データ整備の専門人材が不足

算定は環境担当者では完結せず、購買・調達・経理など全社を巻き込みます。

2. 再エネ調達・制度が複雑で意思決定が止まる

PPA、FIP、非化石証書、自己託送など専門性が高く、社内説明が難しいのが現実です。

3. ROIを設計できず予算化が前に進まない

「投資額と回収見込み」を示せないため、経営判断が遅れるケースが多く見られます。

4. 補助金・事務局などの実務負荷が高すぎる

書類作成・要件整理・報告業務など専門的な事務局作業は、多くの企業でオーバーフローしています。

特に自治体向けビジネス部門では、自治体の要件高度化に対し、企業側の体制が追いつかないケースが増えています。

 

自治体ビジネスで生き残るための「次の一手」

自治体ビジネスを展開する企業にとって、この“実務ギャップ”は競争力に直結します。
公共入札案件で自治体から求められる要件は今後さらに高度化し、脱炭素対応は単なる環境テーマではなく、「公共入札案件に参入し続けるための条件」へと変わりつつあります。

では、どのように社内を動かし、最短で脱炭素対応を進めればよいのか。
どこまでを内製し、どこを外部化すべきなのか。
自治体ビジネスに強い体制をどう整えるべきなのか。

 

▼後編では、これらの課題を解消する具体的な実行モデルを解説します。

  • 排出量算定を“プロジェクト化”する手順

  • 公共入札体案件で差がつく「調査・データ整備・事務局」体制

  • 官民連携で求められる仕様の高度化

  • 入札BPO が提供できる支援モデル

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