自治体の入札案件に参加していると、「特定メーカーの製品仕様に酷似した条件」「数年前の技術基準のまま更新されていない要件」「必要性が不明な過剰スペック」などが、実務上の違和感として発生することがあります。
仕様書や募集要項だけを見ていると不可解に思えるこうした違和感は、企業側の理解不足というより、自治体の調達・入札業務が抱える構造的な問題に起因している場合が少なくありません。
その一つが、調達・入札業務の「属人化」です。
これは自治体内部の課題であると同時に、入札に参加する企業にとっても、提案のしにくさやリスク増大につながる重要なテーマです。近年、この属人化がなぜ問題として表面化してきているのかを理解することは、入札案件を読み解くうえで欠かせない視点になっています。
自治体の調達・入札業務で起きている構造的な問題
調達・入札業務は、法令や各種通知、内部規程に基づいて進められる一方で、実務の現場では多くの判断を伴います。どの条件をどこまで厳しく設定するか、例外的な対応をどう扱うかといった判断は、単純なルールだけでは割り切れません。そのため、過去の経験や監査対応を熟知した特定の職員に判断やチェックが集中しやすい構造があります。
このような体制では、業務は一見スムーズに回っているように見えます。しかし実際には、「その人がいるから成立している」状態になっており、判断の根拠や考え方が十分に共有されないまま蓄積されていきます。企業側から見ると、その結果が仕様書や入札条件として表れ、意図が読み取りにくい案件として映ることになります。
属人化を加速させている最近の自治体事情
この属人化をさらに加速させているのが、近年の自治体を取り巻く環境変化です。ベテラン職員の定年退職や定期異動が進み、部署内に不文律のノウハウが溜まりづらいケースが増えています。引き継ぎが行われていても、判断の背景や過去の経緯まで十分に共有されるとは限りません。その結果、新しい担当者は「間違えないため」に、より慎重で保守的な条件設定を選びがちになります。
また、デジタル庁主導のDX推進により、調達・契約手続きの電子化やシステム化は着実に進んでいます。しかし、システム化されるのは手続きや帳票処理が中心であり、判断やチェックの思考プロセスまですべてが整理されているわけではありません。結果として、外から見える業務は整然としている一方で、内部の判断は依然として人に依存し、ブラックボックス化しやすくなっています。
さらに、国の補助金や交付金の使い道を調査する会計検査院や外部監査による指摘が高度化していることも影響しています。結果だけでなく、その判断が妥当だったか、どのような根拠に基づいていたかまで説明を求められる場面が増え、自治体としては「指摘されにくい安全な仕様」を選択する傾向が強まっています。
調達・入札業務の属人化が入札参加企業に与える影響
こうした属人化は、自治体内部の問題にとどまりません。入札に参加する企業にとっては、仕様書の意図が読み取りにくくなる、評価基準が見えにくい、確認事項が多く発生するといった形で影響が現れます。入札後や契約段階になってから認識のずれが判明し、追加の説明や調整に時間を取られるケースもあります。
また、担当職員の交代によって、それまでのやり取りや前提条件が十分に引き継がれておらず、企業側が再度説明を求められることもあります。これは企業にとって工数やリスクの増加につながり、入札対応そのものの負担を重くします。
入札案件を読み解くために企業が持つべき視点
自治体の入札案件に向き合う際、企業に求められるのは、提示された条件をそのまま受け取るだけでなく、「なぜこの仕様になったのか」「どのようなリスクを避けようとしているのか」を読み取る視点です。調達・入札業務が属人化している自治体ほど、背景を理解した提案や丁寧な説明が評価されやすくなります。
自治体職員の負担軽減や属人化解消の手段として、入札業務そのものを外部委託するという動きも出ています。企業にとっては、その支援自体が新たなビジネスチャンスになり得ます。
属人化という構造を理解することが次の一手につながる
自治体の調達・入札業務における属人化は、今後も簡単に解消される問題ではありません。しかし、その構造を理解することで、企業は入札案件の背景をより正確に読み解き、提案の質を高めることができます。
仕様書や条件に違和感を覚えたときこそ、自治体の内部で何が起きているのかを考えることが重要です。調達・入札業務の属人化という視点を持つことが、単なる応札にとどまらない次の受注や相談につながるヒントになるはずです。