経営事項審査(経審)は、建設業者が公共工事を受注するために必要な審査制度です。耳にしたことはあるけれど、どのように点数化されているのか、計算方法や評価基準を知らない方も多いかもしれません。
この記事では、経審の基本的な仕組みから、点数を高めるための具体的な方法、5つの評価基準の内容などを解説します。さらに、評価に有利となる資格についてもご紹介します。点数アップを目指す企業にとって、実務に役立つ情報をわかりやすくまとめました。
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経営事項審査とは?
経営事項審査(経審)とは、建設業者が公共工事の入札に参加するために受けなければならない重要な審査のことです。経営事項審査は業種ごとに実施され、企業の経営状況や技術力などを数値化して評価します。
公共工事を発注する行政機関などは、客観的な経営データや主観的な評価項目をもとに点数を算出します。点数にもとづき、建設業者をランク付けするのが特徴です。
そのため、すべての建設業者が自由に入札に参加できるわけではなく、一定の基準を満たすことが求められます。経審の点数は、公共事業の受注機会に直結する重要な指標といえるでしょう。
公共工事の入札の流れについて詳しく知りたい方は、下記の記事もあわせてご参照ください。
関連記事:公共工事の入札の流れ|中小企業が落札するためのコツを解説
経営事項審査における点数とは?
経営事項審査における点数とは、建設業者の経営規模や財務状況、技術力、その他の要素を総合的に評価して数値で示したものです。
この点数は全国で統一された基準にもとづいて算出されており、地域や業種の違いに関係なく、すべての建設業者に共通の方法で評価されます。一般建設業・特定建設業、大臣許可・知事許可といった区分にかかわらず、点数の付け方に違いはありません。
経営事項審査の計算方法と5つの評価基準
経営事項審査では、建設業者の実力を多角的に評価するために、5つの主要な基準が設けられています。これらの基準は、経営面から技術力、社会性まで幅広くカバーしており、公共工事の受注に直結する重要な指標です。
以下の表で、それぞれの評価項目について詳しく確認しましょう。
審査項目 | 上限値 | 下限値 | P点に占める割合(%) |
完成工事高(X1) | 2,309点 | 397点 | 25% |
経営規模(X2) | 2,280点 | 454点 | 15% |
経営状況(Y) | 1,595点 | 0点 | 20% |
技術力(Z) | 2,441点 | 456点 | 25% |
その他の審査項目(社会性等)(W) | 1,966点 | -1955点 | 15% |
参考:国土交通省
入札の総合評価方式について詳しく知りたい方は、下記の記事もあわせてご確認ください。
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1.完成工事高(X1)
完成工事高(X1)は、建設業者の経営規模を示す指標のひとつで、経営事項審査の全体点数の約25%を占める重要な評価項目です。
業種ごとに42の区分に分けられ、各業者の完成工事高にもとづいて評点が算出されます。算定には直近2期または3期の平均値を使用でき、どちらを選ぶかで点数が変わるため、より高い金額となる期間を選ぶことがポイントです。
一般的な計算式は、「11〜131の値×(建設工事の業種別年間平均完成工事高)/2,000〜20,000,000の値+397〜1,791の値」です。たとえば、完成工事高の平均が5,000万円の場合、X1評点は「16×50,000÷10,000+565=645」となります。
2.経営規模(X2)
経営規模(X2)は、建設業者の経営体力を示す指標で、経営事項審査全体の約15%を構成する要素です。
この評点は、自己資本額(1年または2年分の平均)と、過去2年間の平均利益額をもとに算出されます。計算方法は「(自己資本+平均利益額)÷2」であり、資本の充実度や利益水準が高いほど高評価につながります。
経営規模(X2)は、財務面の健全性を示す大切な評価基準のひとつです。
3.経営状況(Y)
経営状況(Y)は、企業の財務体質や収益性などを数値化したもので、経営事項審査のうち約20%を占める重要な評価項目です。
8つの指標を4つのカテゴリーに分けて分析し、それぞれの数値をもとに総合的に判断されます。具体的な計算式は、以下のとおりです。
- 負債抵抗力
純支払利息率(Y1)=(支払利息-受取利息配当金)÷売上高×100
負債回転期間(Y2)=負債合計÷売上高÷12
- 収益性・効率性
総資本売上総利益率(Y3)=売上総利益÷総資本×100
売上高経常利益率(Y4)=経常利益÷売上高×100
- 財務健全性
自己資本対固定資産比率(Y5)=自己資本÷固定資産×100
自己資本比率(Y6)=自己資本÷総資本×100
- 絶対的力量
営業キャッシュフロー(Y7)÷1億
利益剰余金(Y8)÷1億
これらをもとに経営状況点数を算出し、Y評点=167.3×経営状況点数+583で最終的な点数が求められます。
4.技術力(Z)
技術力(Z)は、建設業者の技術的な実力を数値化するもので、経営事項審査全体の約25%を占めます。評価は主に「技術職員数」と「元請完成工事高」の2項目で構成され、以下の方法で計算されます。
技術職員数の点数は、以下の表のとおりです。
内容 | 点数 |
1級監理受講者 | 6点 |
1級技術者 | 5点 |
監理技術者補佐 | 4点 |
基幹技能者 | 3点 |
2級技能者 | 2点 |
その他技術者 | 1点 |
上記の表をもとに、点数×人数で技術力(Z)を算出します。
元請完成工事高の点数は、年間平均5,000万円の場合、22×50,000÷10,000+635=745です。
最終的なZ評点は、下記のとおりです。
Z評点=(技術職員数点数×4+元請完成工事高点数)÷5
例:Z=(822×4+745)÷5=807
5.その他の審査項目(社会性等)(W)
経営事項審査における「社会性等評点(W)」は、技術力や経営状況以外の取り組みを評価する項目です。2023年8月14日以降の審査から、新しい算出方法が導入されました。
主な評価内容には、下記のようなものが挙げられます。
- 担い手確保
- 営業継続
- 防災協定の締結
- 法令遵守
- 建設業経理士の在籍
- 研究開発
- 建設機械の保有状況
- ISO認証の取得状況など
これらの合計点に応じて、W評点=合計値×1,750÷200で算出され、企業の社会的責任や将来性を数値で示します。
経営事項審査の点数をアップさせる方法は?
経営事項審査で高い評価を得るためには、各項目の点数を意識的に向上させる工夫が欠かせません。ここでは、経営事項審査の点数アップに役立つ具体的な方法を紹介します。
完成工事高を計上するとき「工事進行基準」を用いる(X)
多くの建設業者は、工事完成基準という会計方式を用い、工事が終わった時点でまとめて収益を計上します。しかし、この方法では工事途中で発生した発注や経費は計上されず、工事が完了するまで赤字は反映されない点がリスクです。
一方、工事進行基準では、工事の進み具合に応じて収益を計上するため、赤字リスクを早期に把握できます。
ただし、利益の出ない工事や赤字工事を受注すると、完成工事高(X点)は高くなる一方で、経営状況(Y点)が低くなります。その結果、経営事項審査で不利になる可能性もあるため受注の際には慎重な判断が必要です。
借入金・固定資産を減らす(Y)
負債を減少させることは、経営事項審査の点数アップに直結します。とくに、負債額や純資本額の削減、短期借入金などの流動負債を返済することで、負債回転期間(Y2)や総資本売上総利益率(Y3)の評価が改善しやすくなります。
また、固定資産を減少させることで、自己資本対固定資産比率(Y5)の向上が見込めるため、財務健全性が評価されやすくなるでしょう。
こうした改善策は、審査結果によい影響を与えるため、積極的に実施することが重要です。
監理技術者講習を受講する(Z)
社内に1級技術者が在籍している場合、監理技術者講習の受講は非常に有効です。この講習を受けることで、「監理技術者資格者証」の取得が可能となり、技術者としての評価が高まります。
通常、1級資格者は5点の評価ですが、監理技術者講習を1日受けるだけで、6点に引き上げられる加点効果が特徴です。手軽ながら実績に大きな影響を与える手段として、積極的に活用しましょう。
建設業退職金共済に加入する(W)
建設業退職金共済への加入は、評点を大きく向上させる手段のひとつで、最大で15点の加点が期待できます。
この共済制度は、中小企業退職金共済法にもとづき設けられ、建設現場で働く人々の福祉向上と安定した雇用を目的としています。加入する際は、建設業の事業主が契約者となり、職員が被共済者となる仕組みです。
現在では、多くの建設業者が加入しており、雇用環境の整備と点数アップの両立に役立てています。
退職一時金制度を利用する(W)
退職一時金制度への加入も、企業の評点を上げる有効な手段です。
ただし、同じ職員が建設業退職金共済と退職一時金制度の両方に加入することはできません。そのため、職種に応じて制度を使い分ける工夫が求められます。
たとえば、現場職員は共済制度、事務所職員は退職一時金制度に加入させることで、両制度からの加点を得ることが可能です。こうした適切な制度の選択が、評点向上には重要なポイントになります。
経営審査の点数アップにつながる資格一覧
経営事項審査では、企業の取り組みや技術者の資格によって加点が得られ、評価の向上につながります。とくに、保有する技術者の種類や、加入している制度などが重要な評価要素となるでしょう。
以下に、加点につながる主な項目と、それに関連する技術者の区分を表にまとめましたので、参考にしてください。
技術者の区分 | 点数 |
1級技術者かつ監理技術者講習受講者 | 6点 |
1級技術者 | 5点 |
監理技術者補佐 | 4点 |
基幹技能者 | 3点 |
2級技術者 | 2点 |
その他の技術者 | 1点 |
ここからは、それぞれどのような場面で役に立つ資格なのか詳しく解説します。
管工事の場合
管工事においては、保有する資格が経営事項審査の評価に大きく影響します。
たとえば「1級管工事施工管理技士」や「2級管工事施工管理技士」などの国家資格を有していると、加点の対象です。
これらの資格は、企業の信頼性や技術者の専門性を示すうえでも有効であり、審査における評価向上に直結します。技術者の資格取得は、企業全体の競争力を高める重要な要素といえるでしょう。
とび・土工・コンクリート工事の場合
とび・土工・コンクリート工事においては、保有する施工管理技士の資格が経営事項審査の加点対象となります。
具体的には、「1級・2級土木施工管理技士」や「1級・2級建築施工管理技士」などが該当し、これらの資格は技術者の専門性を示すうえでも重要です。
適切な資格者を配置することで、企業の技術力が評価されて審査時の評価が高まり、点数アップが期待できます。また、資格者の在籍は、取引先や発注者に対する企業の信頼性向上にもつながるでしょう。
土木一式工事の場合
土木一式工事では、保有する技術資格が経営事項審査の評価に大きくかかわります。なかでも、「1級・2級土木施工管理技士(土木)」や「1級・2級建設機械施工管理技士」といった資格があると、企業の技術力として加点対象になります。
これらの資格は、現場の管理能力や施工技術を証明するものであり、審査時の信頼性向上に欠かせません。資格を所持する人材の確保が、企業の評価を高める鍵となります。
経営事項審査の点数についてよくある質問
経営事項審査の点数に関しては、多くの企業が疑問や不安を抱えることがあります。ここでは、よくある質問とその回答を確認しましょう。
経営審査の平均点はいくつですか?
経営事項審査における総合評定値(P)の平均はおおよそ700点程度とされています。一般的には、この点数を超えると、比較的規模の大きな公共工事の入札にも参加しやすくなるでしょう。
総合評定値を高めるには、「完成工事高(X1)」や「技術職員数・元請完成工事高(Z)」といった比重の大きい項目を高めることが大切です。
ただし、経営状況がよくても設立間もない企業などは実績が少ないため、点数が低く出るケースもあります。赤字決算が入札にどのように影響するのかを知りたい方は、下記の記事もあわせてご確認ください。
関連記事:赤字決算が入札に影響する?
経営審査の最高点はいくつですか?
経営事項審査における総合評定値(P)の最高点は2,136点です。しかし、実際にその水準に達する建設業者はごく一部に限られます。
一般的に、多くの企業の平均点はおよそ700点前後で、中小規模の企業であればこの点数でも十分に公共工事の受注が可能です。さらに、800点を超えると、入札の際に他社より有利になるケースも増えてきます。
無理に最高点を目指すのではなく、自社の状況に応じた加点対策を講じることがより効果的です。
経営審査のAランクはどのくらいの点数ですか?
経営審査におけるAランクの基準点は、年ごとや地域、業種によって異なります。発注機関ごとの点数の目安については、下記の表をご参照ください。
発注機関 | Aランクの目安(P点) |
国土交通省 | およそ900点以上 |
都道府県 | 850〜950点以上(地域差あり) |
市区町村 | 800点前後〜(ばらつきあり) |
多くの自治体では、総合評定値(P)をもとに毎年「等級(格付け)」を更新しており、企業の評価はその年の状況に応じて変動します。
経営事項審査の点数をアップにつなげよう!
経営事項審査は、建設業者が公共工事の入札に参加するために、許可業種ごとに受ける必要がある審査です。審査は主に、以下の5つの評価基準にもとづいて実施されます。
- 完成工事高(X1)
- 経営規模(X2)
- 経営状況(Y)
- 技術力(Z)
- 社会性などのその他の項目(W)
これらの評価項目にもとづいて総合評定値(P)が算出され、入札へと進める流れです。平均的な総合評定値はおよそ700点であり、入札を有利に進めるためにも、まずは700点から目指すのがおすすめです。
評価項目の理解を深め、戦略的に対策を進めることで、点数アップにつなげましょう。
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