自治体ビジネスの中でも非常に注目度の高い『自治体DX』について、自治体ビジネスのプロが3回に分けて解説します。
本記事を参考にして、ビジネスチャンスを掴みましょう。
知っておきたい『自治体DXの基礎』
第1回:3分でわかる「デジタル田園都市国家構想」【本記事】 |
「デジタル田園都市国家構想」チャンスなのはデジタル関連企業だけなのか
2022年12月に国家戦略としてリリースされた「デジタル田園都市国家構想」。多くのデジタル関連企業がビジネスチャンスと捉え、自治体ビジネス市場に相次いで参入しています。
略して「デジ田」とも呼ばれるこの構想、デジタルというタイトルからか「我が社の事業はデジタル分野ではないから関係ない」とお考えの会社も多いのではないのでしょうか。
確かにタイトルだけ見ると、「デジタルを使って農業振興を進めて豊かな緑あふれる田園地域を作ろうとしている」というイメージですね。
実はこの構想、ネーミングのイメージと構想で示されている内容とが全く異なります。
農業に絞ったものではなく、全国各地域の持続可能な成長に関わるすべての企業に直接的・間接的に影響があると言っても過言ではないのです。
「デジタル田園都市国家構想」の目指すところは
この構想は一体何を目指しているのでしょうか。
実は全国の自治体やパートナー企業が2014年以来取り組んできた地方創生をさらに進めるための構想で、今後は地方創生総合戦略に代わるものと位置付けられています。
目指す目的や取り組む分野は地方創生総合戦略とほとんど変わりません。
その一方で、達成のための手段が変わりました。
その手段こそが「デジタル」。
デジタルの力を活用して地方創生を加速化・深化させ「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指すものです。
「田園」というタイトルが付けられた背景
タイトルにある「田園」というキーワード。
「農業関係の計画」という思い込みが一部領域の民間企業の間で一人歩きしているのも頷けます。確かに少し唐突な感じがしますよね。
このキーワードが使われたのにも実は背景があります。
今を遡ること50年近く前、1970年代後半。当時の大平正芳政権がイギリスで提唱された「田園都市」という概念を21世紀へ向けての国づくりの考え方の参考にし、研究グループを立ち上げました。同研究グループが検討を重ね、結果として取りまとめたのが「明治以来の過度集中を是正し、バランスの取れた多極分散型システムへの移行を目指し、都市に田園のゆとりを、田園に都市の活力をもたらすことにより両者の活発で安定した交流を促す」という構想。これが大元の出発点です。
それから時は流れて岸田政権が誕生した際に「デジタルの力を活用して全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会づくり」「地方創生の目指す姿」などに共通するといった観点から、あらためてこの構想を俎上にのせ、2021年11月から「デジタル田園都市国家構想実現会議」の検討が開始されました。
その後同会議で11回もの議論を重ね、50年近くの年月を経て国としての正式な戦略として決定されたのが「デジタル田園都市国家構想」。かつて大平政権が提唱した田園都市として目指す姿の実現にデジタルという手法が加わることによって、より実効性が高いものへとアップデートされたものといえるでしょう。
構想の内容は
この構想が重視している考え方として代表的なものが「東京圏への過度な一極集中の是正や多極化を図ること」および「地方の社会課題を成長の原動力とすること」。
この2つは今まで地方創生で取り組まれてきた考え方と変わりません。
特筆すべきは、地方の社会課題を成長の原動力としている点。
地方の社会課題の解決を経済成長のエンジンとして地方から全国へとボトムアップの成長につなげていく考え方は、全国各地の民間企業にとって大きな影響を持つと考えられます。
上記の2つの考えを実現するためにデジタルを手段として進める施策の方向性はさらに次の2つに分かれ、それぞれについて具体的な取り組み事項が示されています。
どんな会社にビジネスチャンスがありそうか、取り組み内容を一通り見ていきましょう。
① デジタルの力を活用した地方の社会課題解決
地方に仕事をつくる
地域課題の解決にデジタルを活用して取り組む、新たな事業を創造し仕事を増やす取り組みです。
この領域はまさしくSaaS企業の活躍領域。キャッシュレス決済、シェアリングエコノミーなどの社会システムを新たに作ることが望まれています。
一方で、デジタルを使って既存の企業の競争力向上という方向も。農業D X、漁業D X、観光DXなどが該当します。こちらはDXに強い企業と地元の事業者とのタッグなどが目立つ動きとして実現してきています。
人の流れをつくる
これこそが地方創生でも取り組まれていた大きな社会課題。
都市部から地方への人の流れをデジタルの力で実現する取り組みが示されています。
例えば転職なき移住や二拠点居住の推進などは、物理的な距離を結ぶためのデジタルコミュニケーションのソリューションを持っている企業が活躍できそうです。
結婚・出産・子育ての希望をかなえる
仕事と子育ての両立など子育てしやすい環境づくり、子ども政策におけるデジタル技術の活用などが示されています。こちらは働き方改革についてソリューションを提供できる企業にとっては追い風となるでしょう。
魅力的な地域をつくる
ここでいう「魅力」とは、地域に住む人々にとって魅力的であること。
各地域の住みやすさや安全・安心、楽しさなどの魅力向上をデジタルで進めるというもの。教育、医療、介護、地域交通、物流、文化、スポーツ、防災・減災、地域コミュニティの強化など。非常に幅広い分野でデジタルと掛け合わせた仕事の創出が考えられませんか。各分野で技術や知見のある企業は一考の余地ありです。
② デジタル実装の基礎条件整備
デジタル基盤の整備
地域にデジタルを実装するための前提となるインフラ整備として、デジタル基盤整備は必須。
公共交通やエネルギーインフラのデジタル化はもとより、住民サービスの向上に不可欠なのがマイナンバーカードの普及促進。国は、2022年度までにほとんどの国民がマイナンバーカードを持っていることを目標としていましたが、実際は程遠い状況。BtoCのビジネスを展開している企業のノウハウが必要とされる領域です。
デジタル人材の育成・確保
ここに至るまでの具体的な取り組みを実装するためには、計画だけあっても絵に描いた餅。デジタルの知識を持った人材が現場で動かなければ何も進みません。
デジタル人材プラットフォームの構築、デジタル人材の地域への還流促進、女性デジタル人材の育成・確保などが挙げられています。人材育成を事業領域としている企業の出番が多くなりそうですね。
誰一人取り残されないための取り組み
経済的事情等に基づくデジタルデバイドの是正など、国民誰もがデジタル社会の恩恵を得られるようになるための取り組みです。
ここが最も手間がかかって難しい領域である一方、各地域で潜在的なデジタルデバイド住民の気の遠くなるような人数を考えると、事業設計を的確に行い参入すれば大きなビジネスになるかもしれません。
以上、ご紹介してきたこれらの取り組みには、それぞれに具体的なK P Iが設定されています。
K P Iの例としては、
例えば次のようなものが挙げられています。
社会課題解決のためのスタートアップや中小企業等の取り組みの促進・定着・実装が見られる地域:2027年度までに900地域(2022年6月時点で144地域) |
ここは民間企業としては注目ポイント!
自社の製品やサービスがK P Iの達成のためにどのようなことに貢献できるかストーリーを設計して自治体に提案していくと、提案活動が受け入れられやすくなるでしょう。
気になる予算規模
最後に、これらの活動にどれだけの予算がつくのか、大変気になる予算規模をご紹介しましょう。
今回のデジタル田園都市国家構想の実現のため、政府は新しい交付金を創設しました。その名も「デジタル田園都市国家構想交付金」。
令和5年度当初予算で1,000億円、令和4年度補正予算で800億円。
まとまった予算がついています。
交付については自治体を通して地域に予算が降りてくるため、民間企業としては自治体とタッグを組んで取り組みを設計し、進めていくことがビジネスを展開する前提。
そのためには自治体への提案活動が欠かせません。
令和5年度から本格的に実装が開始されるデジタル田園都市国家構想の取り組み。
この追い風をうまく捉えて、関係する企業は社会課題の解決を通じて自社の事業を伸ばしていきたいものです。
知っておきたい『自治体DXの基礎』
第1回:3分でわかる「デジタル田園都市国家構想」【本記事】 |
この記事の執筆者
株式会社LGブレイクスルー 代表取締役 古田 智子 氏 慶應義塾大学文学部卒業後、総合コンサルティング会社入社。中央省庁、地方自治体の幅広い領域の官公庁業務の営業活動から受注後のプロジェクトマネジメントに携わる。 2013年2月、 (株)LGブレイクスルー創業。人脈や力学に頼らず、国や自治体からの案件の受注率を高める我が国唯一のメソッドを持ち、民間企業へのコンサルティング・研修事業を展開。著書に『地方自治体に営業に行こう!!』『民間企業が自治体から仕事を受注する方法』がある。 |