地方自治体との連携を検討しているものの、「包括連携協定とは何か」「通常の連携協定との違いは?」と基本的な知識から悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
包括連携協定を正しく理解することで、自治体・企業双方にとって効果的な連携が実現でき、地域課題解決や新規事業創出の大きなチャンスを掴めます。
本記事では、包括連携協定の基礎知識からメリット・デメリット、進め方のポイントを解説します。最後まで読めば、包括連携協定の全体像を理解し、自社に合った連携の方向性が見えてくるでしょう。
包括連携協定とは?
包括連携協定(ほうかつれんけいきょうてい)とは、地方自治体と民間企業が協定を結び、地域の抱えるさまざまな問題の解決を目指す仕組みのことです。下記のように、地域住民にとって暮らしやすい街づくりが目的となっています。
- 少子高齢化や人口の減少
- 防災のような環境問題
- 教育福祉の充実
民間企業の力を借りることで、地方自治体のみでは手が届きにくい部分にもアプローチできるのが特徴です。両者がもつリソースやネットワークを共有し合うことで、行政サービスの質を高めるとともに、住民への貢献度も向上します。包括連携協定は、従来の行政の枠を超えた、新しい地域づくりの形が期待できるでしょう。
以下の記事では、よく耳にする地方自治体の定義や役割を解説していますので、あわせて参考にしてください。
関連記事:地方自治体とは何か?定義や種類、役割などをわかりやすく解説
包括連携協定の主な目的
包括連携協定の目的は、自治体と企業・NPOなどがそれぞれの強みを持ち寄って、地域課題の解決や住民サービスの向上を目指すことです。近年、自治体は人手不足や財政難、複雑化する住民ニーズといった課題に直面しており、単独での対応が難しくなっています。
一方で、民間や大学など下記のリソースを保有しており、相互に補完し合うことで行政の限界を超えた取り組みが可能です。
- 専門性
- 技術
- 資金
- 人材
さいたま市では「パブリックマインドのある企業等との緊密な協働により、市民サービスの向上を図る」と定義されています。また、千葉市と株式会社ZOZOの連携では、スポーツや子育て支援、観光PRなど多分野での協力が進められています。
対象となる自治体・企業
包括連携協定の対象となるのは、地域課題の解決に意欲的で、継続的な取り組みが可能な自治体や民間団体です。協定の性質上、対象分野や主体に特定の制限はありません。
都道府県・市町村のいずれでも締結可能で、連携相手も営利企業や大学など多岐にわたります。 連携にあたっては、下記のような条件が求められる場合があります。
- 社会的課題の解決や市民サービス向上への明確な姿勢
- 複数の連携事業の実施または計画(例:石岡市では3件以上が要件)
- 反社会的勢力との関係がないこと
実際の取り組み例では、高砂熱学工業によるエネルギー分野の連携、日本航空による観光振興など、さまざまな事業が展開されています。
包括連携協定が誕生した3つの背景
包括連携協定には、下記の3つのような背景が考えられます。
- 地方自治体の人手不足
- 大規模な自然災害の発生
- 自治体のデジタル化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.地方自治体の人手不足
包括連携協定が誕生した背景のひとつは、地方自治体の人手不足です。
そもそも、現代では少子高齢化により全体の労働人口自体が減少している背景があります。とくに若い世代が都会へ出てしまうことから、地方の自治体では職員の確保が難しくなっています。
さらに人口減少地域では、財源を確保することが難しく、行政サービスの維持に必要な人材や予算を十分に確保できない状況です。結果として、地方自治体はコストを削減するしかないというのが実情です。
このような背景もあり、地方自治体と民間企業をつなぐ包括連携協定が生まれました。民間企業と手を取り合うことで、行政業務の効率化を図りたい地方自治体の狙いがあります。
2.大規模な自然災害の発生
包括連携協定が誕生した背景のふたつ目は、相次ぐ大規模な自然災害の発生です。
日本は災害大国と呼ばれており、下記のようなさまざまな問題を抱えています。
- 地震
- 大雨
- 台風
- 洪水
- 積雪
- 土砂
- 災害
- 津波
- 火山の噴火
災害発生時には、地方自治体が主導となり、地域住民の安全を確保するための対応が求められます。たとえば、避難所の設置や救援物資の用意、正確な被害状況の共有などです。
実施すべきことが多くある一方で、地方自治体のみで対応できる範囲には限界があります。そこで、民間企業と連携し、物資提供や情報インフラの整備、技術支援を受ける仕組みとして包括連携協定が活用されています。
災害時の即応体制を強化し、住民の安全を確保するうえでも、官民の連携は欠かせません。
3.自治体のデジタル化
包括連携協定が誕生した背景の三つ目は、地方自治体のデジタル化です。
インターネットやスマートフォンの普及に伴い、行政サービスの効率化や利便性向上が求められるようになりました。
多くの自治体では、IT(情報技術)やICT(情報通信技術)を扱える人材が不足しているのが実情です。IT技術をもつ民間企業と協力することで、地方自治体のデジタル化をサポートできます。
行政システムの導入や、デジタル技術を活用した働き方改革など、企業がもつノウハウや技術を活かすことで、行政業務の効率化や住民サービスの質の向上が期待できます。
包括連携協定と個別連携協定の違い
包括連携協定と個別連携協定は、連携の目的と対象範囲が異なります。
包括連携協定は、地域のもつ課題全体を広い視点で解決することが目的です。
一方、個別連携協定は、下記のように特定の分野に関する課題の部分で連携を図ることが目的です。
- 高齢者・子どもの見守りに関する協定
- リユース活動の促進に向けた連携
- サイバーセキュリティに関する協定
民間企業のもつ専門的な知識を借りることで、地方自治体が地域の問題をスムーズに解決できるようになります。
包括連携協定は、全体を俯瞰して解決する視点、個別連携協定は特定課題に集中する視点で活用されます。それぞれの特徴を理解し、目的に応じて適切な連携手法を選びましょう。
以下の記事では、連携協定について解説しています。包括連携協定のほかにも詳しく知りたい方は、参考にしてください。
包括連携協定を締結する4つのメリット
包括連携協定を締結することで、主に下記4つのメリットを得られます。
- 住民サービスの向上を図れる
- 行政の効率化とコスト削減につながる
- 企業の信頼と実績を作れる
- さまざまな団体と連携できる
詳しく見ていきましょう。
1.住民サービスの向上を図れる
包括連携協定のメリットのひとつは、地域住民のニーズに柔軟かつ的確に応えられることです。
これまで、人手不足や財源の確保が難しいことで後回しにされがちだった地域住民の要望に対応できるようになります。
また民間企業は商売するにあたり、地域住民のリアルな生の声を聞いていたり情報網をもっていたりします。地方自治体だけでは気が付かなかった、新たな課題が見つかる場合もあるでしょう。
地域住民のニーズを知るためには、効果的なアンケートの実施が有効です。下記では、入札前に差をつける営業手法をまとめているので、ぜひ参考にしてください。
関連記事:自治体ニーズを先取り!効果的なアンケートで入札前に差をつける営業手法とは?
2.行政の効率化とコスト削減につながる
包括連携協定のメリットのふたつ目は、行政の効率化やコスト削減につながる点です。
民間企業との連携により、行政サービスの一部を担ってもらうことで業務の効率化が進み、結果としてコスト削減にもつながります。たとえば、地方自治体と電力会社が包括連携協定を締結すれば、電力の調達コストを抑えるといった具体的な効果も期待できます。
ノウハウをもつ民間企業の人材や資金を活用できれば、地域住民にとってよい影響を与えられるでしょう。
3.企業の信頼と実績を作れる
包括連携協定のメリットの三つ目は、民間企業にとって信頼や実績の構築につながる点です。
民間企業が地方自治体と協力して事業に取り組むことは、大きな実績になります。
地方自治体と協力することで、地域住民からの企業イメージの向上や知名度アップも可能です。住民から信頼を得ることで、自社のサービスをアピールできるチャンスを獲得できます。
包括連携協定の中で、地方自治体と地域課題解決のための新たなサービスの展開も可能です。
4.さまざまな団体と連携できる
包括連携協定を結ぶことで、企業・大学・NPO・各種団体など、多様な主体と継続的なネットワークを構築できます。結果として、単独では対応が難しい大規模かつ複合的な地域課題の解決が可能になります。
現代の地域課題は、ひとつの組織や分野だけでの対応が難しいものです。包括連携協定は、こうした複雑な課題に対して、異なる強みや専門性をもつ複数の団体が協力し合えるプラットフォームの役割を果たします。
たとえば、下記のような分野での連携が実現しています。
- ソフトバンク:ICTやロボットを活用した地域サービス
- 京都女子大学:リカレント教育による人材育成支援
- 共愛学園前橋国際大学:学生による地域支援活動
参考:
多様な連携によって相乗効果が生まれ、実効性の高い地域づくりが進められています。
包括連携協定を締結するデメリット・注意点
この章では、包括連携協定を締結する際に留意すべきデメリットや注意点について紹介します。 包括連携協定を締結するデメリット・注意点は下記のとおりです。
- 成果が数字で見えにくい
- 自治体と企業の意識にズレが生じやすい
- 収益につながりにくい
- 協定内容が不透明になりやすい
詳しく見ていきましょう。
1.成果が数字で見えにくい
包括連携協定のデメリットのひとつ目は、成果が数字で見えにくい点です。
包括連携協定では、地方自治体と民間企業が協力するのが一般的です。しかし、どのような効果があったのかはわかりにくくなっています。
とくに下記のように、明確な数値やデータがない分野では困難です。
- 環境保全
- 子育て補助
- 災害対策
- 地域の安全性の向上
分野によっては、来訪者数や売上など数字で判断できるケースもあるため、一概に成果が見えない訳ではありません。ただし、成果がわかりにくい分野の場合は、協定締結前に目標や評価方法を関係者間で共有しておくのがよいでしょう。
2.自治体と企業の意識にズレが生じやすい
包括連携協定のデメリットのふたつ目は、自治体と民間企業で意識のズレが生じるリスクがある点です。
包括連携協定を結ぶ際に、自治体が民間企業に過度な期待をしたり、民間企業が自治体の要望をうまくくみ取れなかったりする可能性があります。
双方の認識にズレがないように、予算確保や収益化可能な仕組みづくりなど、事前のすり合わせを実施するのが有効です。たとえば、スケジュールや予算などを、あらかじめ設定しておきましょう。
3.収益につながりにくい
包括連携協定のデメリットの三つ目は、民間企業にとって収益性が低いことです。
小規模自治体との連携では予算が限られており、企業に十分な対価が支払われないケースもあります。地域貢献という側面に重きを置いた協定が多いため、直接的な利益を得にくいのが実情です。
あらかじめ地方自治体は、民間企業に支払う予算を確保し、かつ共同で収益アップにつながる計画を立てるようにしましょう。
4.協定内容が不透明になりやすい
包括連携協定は幅広い分野での長期的な協力を前提とするため、協定書の内容が抽象的・一般的になりがちです。とくに締結前の準備が不十分な場合、実行段階で連携が停滞するリスクが高まります。
おもな原因となる準備不足の具体例は、下記のとおりです。
- 目的や活動内容のすり合わせ不足
- 役割分担・責任範囲の不明確さ
- 成果やKPIの未設定
- 実行計画(予算・スケジュール)の策定不足
これらの準備不足によって、協定書の内容が「地域活性化に協力する」「必要に応じて支援する」などの曖昧な文言にとどまってしまうケースもあります。結果、関係者の認識にズレが生じ、事業の着手が遅れる要因になるでしょう。
協定を締結すること自体が目的となると、当初の意義が失われ、取り組みが自然消滅するおそれもあります。こうしたリスクを回避するには、協定締結をスタート地点と捉えることが大切です。
連携の目的や実行計画、役割分担などを明確にし、関係者間で丁寧に合意形成を進めていく必要があります。
包括連携協定の流れ
包括連携協定を締結するまでの具体的な流れは、下記のとおりです。
- 事業者が市に協定を申し出る
- 新たな連携事業を提案する
- 市が連携事業のニーズを調査する
- 事業内容の詳細を協議する
- 包括連携協定を締結する
詳しく解説します。
事業者が市に協定を申し出る
協定は事業者側からの申し出からはじまります。地域課題の解決に貢献したい意欲と、自社の技術や資源を活かしたい動機をもつ企業や団体が、市の政策企画課・官民連携推進室などの担当部署に連絡を取るケースが多い傾向です。
一般的には、下記の情報がやりとりされます。
- 健康促進・防災などの連携希望分野
- 専門知識・技術・人材などの提供できるリソース
自治体側からは、協定の目的や要件、必要な手続きなどの説明が提供されます。事業者は、申し出前に自治体のガイドラインや既存事例などを調査しましょう。
自社の強みと地域課題を結びつける、具体的な提案内容を準備しておくことが望ましいです。
新たな連携事業を提案する
事業者は、既存の連携実績を整理しながら、自社の専門性・資源を活かした新しい連携事業を具体的に提案します。自治体内部での検討に必要な材料を提供し、協定締結に向けた基盤を築く重要な工程です。
多くの自治体では、複数の連携事業が前提になっています。たとえば、茨城県石岡市では「3以上の連携事業かつ異なる3分野以上での事業」を提出要件としています。船橋市でも「3事業以上かつ4分野以上での連携事業」が協定締結の条件です。
提案例には、以下のような内容が含まれます。
- 健康推進:大塚製薬の熱中症対策や生活習慣病予防プログラム
- 防災支援:物流インフラを活用した災害時の物資供給体制の構築
提案書には、連携事業の目的や期待される成果、具体的な実施内容とスケジュールを明記することが重要です。あわせて、役割分担や費用負担の考え方、自治体の総合計画なども記載しましょう。
市が連携事業のニーズを調査する
包括連携協定は市全体の方針に関わる重要な枠組みです。そのため市の政策企画課などが中心となり、協定候補事業に対し関係部署への調査とヒアリングを実施します。
市内各課がそれぞれの視点から「取り組みの必要性」「協力可能性」「リソースの確保状況」などを確認し、全庁的に総合判断できる体制を整えます。
具体的に確認する項目は、下記のとおりです。
- 各部署の関心度と協力度
- 解決したい課題の洗い出し
- 市内の既存事業との重なり・相乗効果
- 予算や人員配置の見通し
たとえば、健康促進に関する取り組みであれば、保健福祉課や高齢者支援課が関与します。防災関連であれば、防災危機管理課が主な担当です。いずれの場合も、関係部署が連携しなければ実効性に欠けるおそれがあります。
事業内容の詳細を協議する
ニーズ調査の結果を踏まえ、自治体と事業者はそれぞれの担当者が協議の場を設け、提案された連携事業の具体化を進めます。この段階では、抽象的な提案を実現可能な計画へと落とし込み、実施可否を最終判断するための重要な協議が行われます。
協議では、下記の事項について詳細を詰めていく流れです。
- 実施する事業内容と方法
- 双方の役割分担と責任範囲
- 費用負担の方針と予算確保の手段
- 実施スケジュールと成果目標
- 成果測定方法やKPIの設定
- リスク管理とトラブル時の対応策
協議には、事業者側から営業や技術部門の担当者、自治体側から政策企画課の職員や関係各課の担当者が参加します。議論では、住民の利益や自治体の政策目標との整合性、事業の持続性と双方にとってのメリットが重視されます。
包括連携協定を締結する
連携事業の進捗や実施予定をもとに、政策企画課などの担当部署が協定締結の可否を検討し、庁議などで最終判断を行います。包括連携協定は、自治体の重要な政策判断です。そのため、市長や副市長、部長級職員による決裁を経て、締結の可否が決まります。
締結までの主な流れは、下記のとおりです。
- 担当部署による検討結果のとりまとめ
- 庁議などでの審議・承認
- 締結に至らない場合は、個別協定や限定的な事業連携の検討
協定書の作成にあたっては、目的・連携事項・役割分担などを双方で調整し、必要に応じて法務担当がリーガルチェックを実施します。そのあと、協定締結式を開き、自治体ホームページやプレスリリースなどで広く公表されます。
包括連携協定を成功に導く4つのポイント
包括連携協定を成功に導くためには、下記4つのポイントを押さえましょう。
- 目標と計画を明確に決める
- 定期的に進捗を確認する
- 自治体と企業が協力しやすい体制をつくる
- 透明性の高い情報公開を徹底する
詳しく解説します。
下記記事にて、自治体向けの営業を担当されている方向けの攻略のコツをまとめていますので、ぜひご覧ください。
関連記事:【自治体向け営業】入札案件攻略のための3つの必須対策!
1.目標と計画を明確に決める
包括連携協定を実効性のあるものにするためには、連携の目的を明確に共有し、役割分担や行動計画を具体的に定めることが大切です。とくに、数値目標や達成期限を設定すれば、進捗の管理や成果の可視化がしやすくなるでしょう。
一方、連携の目的や方向性に沿って、地域資源を活用した事業を段階的に進めていくケースもあります。下表に、さまざまな自治体・企業による協定の計画事例を紹介します。
連携事例 | 目標・計画の内容 |
静岡県×健康マイレージ制度 | ・健診受診率の向上を目指し、県と市町が連携 ・マイレージ制度を活用して住民の行動変容を促進 |
日本航空×高知県大豊町 | 銀不老豆の生産拡大や観光資源を活かしたツアー造成を通じ、地域活性化と交流人口拡大を目指す |
参考:
JALふるさとプロジェクト|日本航空×高知県大豊町 包括連携協定の締結を通じた取り組みについて
目標を立てるときは、「どのような成果を目指すのか」を明確にし、具体的に確認できる形になっていることが大切です。あわせて、「いつまでに達成するか」も決めておくと、協定を着実に進めるうえで効果的です。
こうした考え方は「SMART原則」と呼ばれ、協定の実効性を高めるための基本とされています。
2.定期的に進捗を確認する
包括連携協定を形骸化させず、実効性を維持するためには、定期的な進捗確認と事業の見直しを行いましょう。協定を締結したまま放置されると、当初の意義が薄れ、事業が停滞するリスクがあります。
重要なのは、締結後も継続的にPDCAサイクルを回す仕組みです。PDCAとは、計画を立てて実行し、結果を評価して改善につなげるという一連の流れを繰り返すことで、事業の質を高めていく管理手法です。
たとえば、船橋市では協定事業者ごとに毎年度当初に個別定例会議を開催し、前年度の連携事業評価と新規事業検討を実施しています。協定を結んで終わりにせず、改善を繰り返す仕組みとして運用することで、成功につなげられるでしょう。
参考:船橋市|市と事業者との包括連携協定締結に関するガイドライン
3.自治体と企業が協力しやすい体制をつくる
包括連携協定を円滑に進めるには、自治体と企業が互いの違いを理解し、継続的に協力できる体制を整えることが重要です。
自治体は公平性や法令遵守、公共性を重視し、段階的な合議制による意思決定が基本です。一方で企業は、収益性やスピード感を重視し、トップダウン型の迅速な意思決定が多く見られます。
このような違いを踏まえたうえで、窓口の一元化や役割の明確化など、運営・調整の体制整備が求められます。実際の自治体の運用例は、下記のとおりです。
- 船橋市・石岡市:政策企画課が協定全体の調整を担当
- 長崎市:官民連携推進室を設置し、連携業務を専任対応
協定を成功に導くには、双方にメリットのある「Win-Winの関係性」を築くことが基本です。
参考:
石岡市|石岡市と事業者等との包括連携協定締結に関するガイドライン
4.透明性の高い情報公開を徹底する
包括連携協定の信頼性を高めるには、住民への積極的な情報公開が欠かせません。自治体が説明責任を果たす姿勢を示すことで、協定の実効性や住民の協力も得やすくなります。
たとえば東京農業大学では、連携先ごとに活動報告書を作成・公開し、透明性の高い運用が行われています。公開すべき主な項目は、下記のとおりです。
- 協定の目的と背景、期待される効果
- 実施中の連携事業の内容と進捗状況
- 成果とその評価(KPI達成度など)
- 今後の課題と改善策
- 費用負担や予算の概要
- 住民が参加・協力できる機会
これらの情報を丁寧に共有することで、住民の信頼や関心を高め、協定への主体的な関わりにもつながります。
包括連携協定の具体的な連携事例
包括連携協定の具体的な連携事例は、下表のとおりです。
連携事例 | 協定先(団体名) | 連携相手 | 内容 |
住民の健康支援 | 大塚製薬株式会社 | 47都道府県および複数の自治体 | 熱中症対策や食育などで住民の健康を支援 |
健康意識の向上 | 住友生命保険相互会社 | 大阪府・神奈川県茅ヶ崎市など | Vitalityウォークや歩数計アプリを活用したウォーキング支援などで健康づくりを実施 |
地域づくりと大学活性化 | 関西大学 | 大阪府岸和田市 | 包括的な連携により、地域振興と大学の発展を推進 |
国立音楽大学と羽村市の連携協定 | 国立音楽大学 | 東京都羽村市 | 地域貢献、人材育成、文化発展を目的とした連携 |
前橋市のSDGs複合連携 | 群馬大学・NPO等 | 群馬県前橋市 | 企業・大学・NPO等が連携し、SDGsの目標達成に向けた多分野の活動を推進 |
群馬県のGX推進複合連携 | ヤマト運輸・KDDI等 | 群馬県 | 脱炭素・GXの実現に向けた包括連携 |
参考:
環境省|環境省と大塚製薬株式会社による熱中症対策の推進に関する連携協定について
住友生命|神奈川県茅ヶ崎市において「Vitality」を活用した事業を開始
包括連携協定は多様な主体が協働し、地域課題の解決や価値創出に取り組む手法として広がりを見せています。
包括連携協定と入札の関係
包括連携協定の中で、地方自治体が「地域イベントの運営」や「施設の建設・管理」など、具体的な事業の実施を決定することがあります。その場合、事業を実施する民間企業を選定するために、入札が行われます。
たとえば、包括連携協定の一環として地域振興イベントを開催する際、運営企業を公募・入札で選ぶケースが一例です。このように、包括連携と入札が併用される場面では、両制度の違いや併用時の留意点を正しく理解しておくことが不可欠です。
ここでは、包括連携と入札制度の違いや、入札との併用時に注意すべき点について詳しく解説します。
以下の記事では、自治体入札の流れを解説していますので、あわせて確認してみてください。
関連記事:【初心者向け】自治体入札の流れや種類を解説!入札のメリットとは?
包括連携と入札制度の違い
包括連携協定と入札制度は、どちらも自治体と民間事業者等が関わる仕組みです。しかし、目的や手続き、法的性質が異なります。
両者の違いは、下表のとおりです。
項目 | 包括連携協定 | 入札制度 |
目的 | 地域課題の解決や住民サービスの向上 | 公正かつ効率的な契約相手の選定 |
手続き | 自治体と事業者で合意 | 地方自治法や地方財政法などにもとづく法定手続き |
法的拘束力 | ・一般的に法的拘束力はない ・反対給付(報酬などの対価)を伴わない協力関係が前提 |
契約が成立すれば、明確な権利義務関係が発生 |
包括連携協定は、自治体と民間が対等な立場で協力する枠組みで、報酬の発生を前提としないのが特徴です。一方、入札制度は契約にもとづく事業委託であり、法的拘束力を伴います。
両制度の違いを正しく理解し、適切に使い分けましょう。
以下の記事では、入札の基本情報を詳しく解説していますので、理解を深めたい方はあわせてご覧ください。
関連記事:入札とは?入札の基本情報・入札参加の流れをわかりやすく解説
入札との併用時に注意すべき点
包括連携協定を結んだ事業者が、そのあとの入札に参加する場合は、公平性や利益相反の観点から注意が必要です。協定によって得た情報や関係性が、ほかの入札参加者より有利に働くと、公正な競争が損なわれるおそれがあります。
とくに注意すべきケースは、下記のとおりです。
- 協定事業者が政策立案や仕様書作成に関与していた
- 協定を通じて非公開情報を取得していた
- 担当部署と密接な関係を築いていた
このような状況では、包括連携と入札を明確に分離し、情報管理や関与範囲の透明化を図ることが不可欠です。企業側も制度の違いを正しく理解し、事前に入札制度への知識や準備を整えておきましょう。
入札アカデミー(運営:株式会社うるる)では、入札案件への参加数を増やしていきたい企業様向けに、無料相談を承っております。 これまでに、のべ3,000社以上のお客様から相談を受けており、多くの企業様に好評をいただいております。
入札情報サービスNJSSを16年以上運営してきた経験から、入札案件への参加にあたってのアドバイスが可能です。相談は無料となりますので、気軽にお問い合わせください。
包括連携協定の仕組みを理解し、地域貢献の可能性を広げよう
包括連携協定は、自治体と企業が防災や教育など、複数分野で協力できる仕組みです。住民サービスの向上や行政効率化などの利点がある一方、成果の見えづらさや収益確保の難しさといった課題もあります。
連携の成功には、明確な目標設定や定期的な進捗確認、情報公開が欠かせません。官民連携が注目される今、地域貢献と事業機会の両立を実現する有効な手法といえるでしょう。